ChatGPTやGeminiをはじめとする、いわゆる生成AIの進化は凄まじいものがあります。
最近では、Googleなどのネット検索をするよりも、生成AIに疑問点などを聞くという方も増えてきているのではないでしょうか。そこで生じるのが、税金のことに関して生成AIに聞いても大丈夫かという点です。この点について、税理士の視点から述べてみたいと思います。
なお、生成AIの技術は日々進歩していますので、この記事はあくまで2025年10月現時点での情報としてご覧ください。
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税金の疑問、AIに聞いても大丈夫?
「この支払いは事業の経費にできるだろうか」「医療費控除の対象になるだろうか」「この特例は使えるだろうか」というような税金に関する疑問は、多くの方がお持ちになるかと思います。
こういった質問をChatGPTなどの生成AIに投げかけると、非常に説得力のある回答が得られることがあります。情報としても整っているので、そのまま信じて問題ないように思いますが、実際はどうなのでしょうか。
税理士の立場から申し上げますと、基本的な事項に関してはある程度AIに聞いても大丈夫なのですが、聞く内容によっては、やはり注意が必要なことが多くあります。
これは、税金については下記のような注意点があるためです。
1.一般的に言われていることが、必ずしもご自身に当てはまるかはわからない
例えば、「自宅の家賃や光熱費は経費になりますか?」という質問を考えてみましょう。一般的には「仕事でも使っていれば経費にできる」という答えが返ってくるかもしれません。
ただし、これはあくまでも「どの程度を仕事用として使っているか」を明確に示せることが前提です。
たとえば自宅の一部を事務所として使っている場合、その面積や使用時間などをもとに、仕事で使っている割合を合理的に算出しなければなりません。また、その割合は人によって大きく異なります。

家賃は仕事部屋の面積割合で良いかもしれませんが、水道やガスは仕事でどのくらい使いますでしょうか。お風呂や食事での使用が大部分であって、仕事にはあまり使わないのではないでしょうか。このように人によって事情が異なる内容について、AIが「あなたの場合は〇%です」と判断することは難しいものと思われます。
このように、「一般論としては経費にできる」と言われるものであっても、実際にどの程度を経費とするかは、個々の状況によって大きく変わります。
税金の分野では、こうした“個別事情による判断”が非常に多く存在し、AIにはなかなか判断が難しいであろうと考えられます。
2.税金は改正が早い
税金に関するルールは、毎年のように税制改正が行われます。生成AIは基本的にインターネット上の情報を基にしているため、その情報が古かったり、最新の税制改正を反映できていなかったりする可能性があります。
もし近年改正された制度や、すでに廃止された特例などについて調べる場合は、古い情報が混じってしまう危険性があります。最新情報を参照することが重要ですが、頻繁に改正される制度を専門家でない方が追いかけるのは、なかなか難しいのが実情です。
3.税金は間違った情報、いわゆる「都市伝説」的なものも多い
税金の世界には、あたかも正しい情報かのように広まっている、いわゆる「都市伝説」のような話も少なくありません。
例えば、贈与についてこのような話を聞いたことがないでしょうか。
- 「贈与の証拠を残すため、あえて111万円の贈与をして1,000円の贈与税を払っておけば、後で名義預金だと指摘される可能性が少なくなる」
- 「毎年同じ日に贈与をすると『連年贈与』とみなされるので、贈与する日や金額をずらすのが有効」
上記のような話は、正直なところ都市伝説的な部分が含まれます。(税理士も上記のように解説していたりしますが……)
生前贈与によって相続税の節税を行うということは一般的ですが、例えば子の口座にお金を振り込んでいたとしても、そもそも贈与が成立していない場合はいわゆる名義預金として、子の名義口座であっても親の相続財産として相続税の対象となってしまう、といった論点があります。
確かに、これを避けるために贈与税をあえて支払っておくような形で贈与の証拠を残すというのは一つ手ではあるのですが、そもそも贈与というのは、贈与する側の意思ともらう側の意思がしっかり合致して、かつもらったお金を受け取った側がしっかりと使える状態になっているかなど、贈与が成立しているかどうかの様々な判断要素があり、そのうえで総合的に判断されるものです。
贈与税の申告をしていたからといって贈与をしていたという証拠になるわけではないので、あえて111万円をもとに贈与税の申告をしたからといって、無意味とは言いませんがそれだけで贈与が認められるというわけでもありません。
また、毎年の贈与日や金額をずらすというのは正直なところあまり意味がないと思われます。
これは「毎年100万円ずつ10年間贈与することを約束する」といったいわゆる「定期贈与契約」をすると、「最初の年に100万円×10年分の贈与契約したのだから、その時点で約1,000万円分の贈与をしたとして贈与税が課税される」といった話を誤認したことによる都市伝説だと思われます。
定期贈与(複数年に渡って贈与することをあらかじめ契約する)と連年贈与(毎年のように同じような贈与契約をする)は別物です。わざわざ定期贈与契約をすることは少ないように思えます。
このように、SNSなどで定期的に流布されているこれらの情報をAIが正しい情報として学習し、回答に含めてしまう可能性も考えられます。
4.ハルシネーションが混じってしまう可能性がある
ここで少し立ち止まって、生成AIの仕組みを簡単に整理しておきましょう。
ChatGPTなどの生成AI(とくにLLM=大規模言語モデル)は、「夢のような魔法の装置」ではなく、インターネット上に存在する膨大な文章データをもとに、“統計的にもっともそれらしい文章”を作り出す技術です。

例えば「八王子のおすすめ観光スポットは」という文章が来たら、インターネット上の膨大なデータから統計的にその次に来るであろう言葉、例えば「高尾山」といった単語を次に続ける、というような形で文章を生成するのが基本的な仕組みです。
つまり、AIが自分で考えたり、事実を直接知っているわけではなく、“確率的にもっともらしい回答”を選び出して文章化しているに過ぎません。
そのため、情報源が偏っていたり不正確だった場合や、統計的に判断できるだけの情報量がない場合・そもそも存在しないような場合には、誤った情報や実際には存在しない情報を生成してしまうこともあります。
これはハルシネーションと呼ばれ、事実に基づかない情報をあたかも正しいかのように生成してしまう現象です。
AIの機能は年々進歩していますが、まだまだこのハルシネーションのリスクがあるのが現状です。実際にアメリカでは、弁護士が過去の判例についてAIで調べたところ、全く存在しない判例が提示され、その判例を裁判で引用してしまったために弁護士が処分を受けるという事件がありました。
このように、ハルシネーションは専門家であっても見分けるのが難しいことがあり、情報の裏取りが非常に重要になります。
なぜハルシネーションは起こるのか
ハルシネーションが発生してしまう原因については、ChatGPTを運用するOpenAIなども論文を発表していますが、概ね以下のような原因が挙げられています。
●情報自体が誤りであること
生成AIの学習源であるインターネット上には、信頼性の低い情報も多く含まれています。元の情報が間違っていれば、当然ながら生成される回答も誤ったものになる可能性があります。
●生成AIの技術上の問題
生成AIは、わからない場合に「わからない」と答えるよりも、統計的にそれらしい回答を生成してしまう性質があります。これは、その方が良い評価を得やすいと学習してしまっていることも一因とされています。(人間がマークシート方式で試験を受けるときに、わからない問題でもあてずっぽうで回答すれば得点が高くなる可能性があるのと同じです)
生成AIの回答には、ある程度ハルシネーションが混じる可能性があることを前提として考える必要があります。
どのような工夫が考えられるか
上記のようなリスクを踏まえた上で、生成AIに税金のことを聞くときには、どのような点に注意すればよいでしょうか。
1.生成AIの出した回答はあくまでも参考材料とする
最終的な税金の判断は、あくまでもご自身で行うということが大切です。AIの回答を鵜呑みにするのではなく、ご自身が判断を行うための材料集めとして利用する必要があります。
もしAIの回答を信じて誤った申告をしてしまったとしても、それはご自身の判断であり、言い訳にはならないということを十分に注意しておくべきでしょう。
2.プロンプトの内容(聞き方)を工夫する
プロンプト、つまりAIへの入力文章を工夫することも有効です。
- 「回答は国税庁のサイトを元にしてください」と、信頼できる情報源に限定する。
- 「複数の回答が考えられる際には、それぞれを比較検討する形で回答してください」と、多角的な視点を求める。
- 「回答にあたっての情報源を示してください」と、ご自身で裏取りしやすいように出典を求める。
このように単純に疑問点について聞くのではなく、正確な情報を引き出せるようにAIを使いこなす、というのも非常に大事です。
3.情報源をこちらから与える
調べたい特例について、国税庁が出している解説資料など信頼できる情報源があれば、その資料をAIに読み込ませて、その内容をもとに要約・回答してもらうという方法が考えられます。
GoogleのNotebookLMなどのツールを使えば、基本的に与えられた資料に基づいて回答してくれるため、ハルシネーションのリスクを抑える上で非常に有効な手段です。
個人情報の取り扱いにも注意を
もうひとつ重要な点として、生成AIを使う際の個人情報の扱いがあります。
税金に関する質問には、事業内容や家族構成、受けている医療や介護サービスの内容など、非常にセンシティブな情報が含まれることが多いです。
AIサービスの多くは、ユーザーの入力内容を学習データとして再利用する可能性があります。
そのため、個人情報を入力する場合には「学習に使われない設定(オプトアウト)」を有効にすることが非常に大切です。
ChatGPTなど主要なサービスでは、学習対象から除外するための設定があります。初期設定では学習に使われる設定になってしまっていることが多いため、注意が必要です。

また、ChatGPTやGeminiといった主流のツールを使うことも重要です。あまり聞いたことのないAIサービスの場合、個人情報の流出につながってしまう恐れがあります。運営している会社が信頼できるのか、どこの国の会社なのかも確認しておいた方がいいかもしれません。
安心して使うためにも、質問の際には具体的な名前・住所などの個人情報を避け、どうしても入力する必要がある場合は、信頼できるツールを選定し、必ず設定を確認してから行いましょう。
まとめ
今回は、税金に関する疑問を生成AIに質問する際の注意点と工夫について解説しました。
生成AIは、一般的な情報を調べる上では非常に便利なツールです。しかし、ご自身の状況に当てはめて最終的な判断をすることは、現時点でのAIにはできません。AIの特性やリスクをよく理解した上で、あくまで判断の補助として賢く活用することが重要です。
判断に迷う場合や、重要な意思決定が必要な場合は、必ず税理士などの専門家にご相談ください。

東京都八王子市在住、37歳の税理士です。1987年11月18日東京都町田市生まれ、現在は妻と息子2人の4人暮らし。
相続税や所得税など個人に関する税金の算定、クラウド会計等を利用した小規模法人や個人事業主の業務効率化が得意分野です。
