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年末調整とは?
毎月の給与や賞与からは、支払う金額とその人の家族の状況をもとにした「だいたいの所得税額」を徴収しています。これを「源泉徴収」といいます。
所得税はその人の年収や控除の内容が確定する年末にならないと、正確な税額がわかりません。そこで毎月徴収している「だいたいの所得税額(源泉所得税)」と、年末に正しく計算した「正確な所得税額」を比較し、過不足を精算することになります。これが年末調整です。
年末調整の対象にならない人
下記の方は、原則として確定申告が必要になります。
・主たる給与で、年収が2,000万円を超える人
・扶養控除等申告書を会社に提出していない人(乙欄対象となる方)
・日雇いの人(丙欄対象となる方)
・年内に退職する人で、12月に給与の支払いをしない人(※)
・その他(海外に住んでいる人など)
※死亡退職や、障害や病気により年内に再就職の見込みがない人など、退職後、年内に他の会社から給与をもらう予定がない人は、例外として退職時に年末調整と同様の手続きをする場合があります。
年末調整の対象になる人
上記の「年末調整の対象にならない人」以外の人です。具体的にいうと、12月時点で在職している人などが年末調整の対象となります。
なお、確定申告をする方であっても、年末調整の対象となる人は必ず年末調整を行います。つまり、年末調整→確定申告と二段階で所得税を計算していくことになります。
所得税の概要
所得税は「1年間の稼ぎ」と「その人の事情」「社会政策上の要請」で決まる
所得税とは、所得に対する税金です。所得とは簡単にいえば「稼ぎ」のことであり、会社から給与をもらう人は、その給与が所得になります。(会社員であっても、休日に副業をしていたり、年金を受給していたり、不動産の売却があったり、投資を行っていたり、給与以外にも所得がある人がいるかもしれません)
所得税は、所得が高いほど税金も高くなります。所得が高いということは税金を支払う能力(担税力)も高いはずだから、高めに税金を支払ってね、という考え方です。
所得税は1月1日~12月31日の1年間を基準とします。会社員であれば「年収」をもとにして、年収が高いほど税金も高くなる仕組みとなっています。
ただし、たとえ同じ年収であっても、税金を納める余裕がある人もいれば無い人もいます。子供を扶養していたり、シングルマザーであったり、障害を持っていたりとそれぞれ事情が違うからです。
また一方で、「生命保険に加入して万が一に備えてほしい」「マイホームを積極的に取得してほしい」といった社会政策上の要請を、税金を安くする形で後押ししようという考え方があります。
所得税では、このような「その人の事情」「社会政策的な配慮」を考慮して、税金を安くする仕組み(控除)を用意しています。
年末調整においてもこのような事情を考慮して所得税を計算する必要があり、その内容を確認するために、各種の申告書や証明書を会社に提出することになります。
年収100万円を超える場合は受けられる控除がないか確認しよう!
細かい条件にもよりますが、収入が給与のみの場合、年収がおおむね100万円を超える場合は税金が発生する可能性があります。
そのような場合は、年末調整で受けられる控除がないか確認を行いましょう。控除を漏れなく申請することにより、節税につながります。
年末調整で受けられる控除についてはこの記事の後半で解説しています。
年末調整と確定申告
1年間の収入が今働いている会社からの給与だけで、かつ受ける控除も年末調整で控除可能なものだけであれば、確定申告をすることなく年末調整だけで所得税の計算が完了します。
この場合、基本的に確定申告をする必要はありません。すでにその人の所得と控除がすべて反映されているからです。
一方で、医療費控除など年末調整で受けることができない控除を受けたい場合や、複数の会社で同時に働いている場合、副業による収入がある場合などはご自身で確定申告が必要になります。
確定申告が必要になる場合は、(年末調整をした場合であっても)その会社の給与を含むその年のすべての所得・控除に関する情報をもとに、確定申告を行います。
年の途中で転職しても年末調整で完結できるケース
途中で転職した場合であっても、前の会社に「扶養控除等申告書」を提出し、いわゆる「甲欄」で源泉徴収されている場合は、前の会社の源泉徴収票を年末調整を行う会社に提出することで、前の会社の給与も合算して年末調整を行うことができます。
※前の会社がアルバイト・パートであっても、必ず源泉徴収票の提出が必要です。
前の会社が「甲欄」で源泉徴収されているかどうかは、交付された源泉徴収票の左下欄「乙欄」というところをみます。ここが空欄であれば「甲欄」で源泉徴収されているので、年末調整の際に一緒に計算することが可能です。
ここに〇やチェックがついている場合は「甲欄」ではないということになりますので、この源泉徴収票を年末調整の計算に含めることはできず、今の会社の分だけで年末調整を行ったうえで、複数枚の源泉徴収票をもとに確定申告を行うことになります。
また、現在も2か所以上の会社で働いている場合は、主な会社以外は乙欄で源泉徴収されることになります。甲欄で源泉徴収されている主な会社で年末調整を行ったうえで、甲欄の源泉徴収票と乙欄の源泉徴収票をまとめて確定申告することで、年間のすべての所得をもとに所得税を計算します。
所得税と住民税
年末調整で翌年度の住民税も決まる
年末調整は所得税を計算する手続きですが、同時に住民税の計算の基となる手続きでもあります。
所得税が国に対する税金(国税)であるのに対し、住民税は都道府県民税と市区町村民税を合わせた地方税で、計算方法は所得税とほぼ同じ(※)ですが、所得税は今年の所得に応じて今年の税額が決まるのに対して、住民税は今年の所得に対して来年の税額が決まる、といった違いがあります。
※控除の額や税率、非課税規定など、若干の違いがあります。
年収と所得の違い
年収≠所得の法則
年末調整をしていると、「所得」という言葉が頻繁に出てきます。
注意が必要なのは、これはいわゆる「年収」とは違う、ということです。
所得とは、基本的に収入から経費を引いた後の金額をいいます。なお給与には経費がありませんが、経費に代わるものとして「給与所得控除」というものが認められています。
給与所得控除は、年収162万5000円以下であれば55万円が最低額として認められています。
年収がそれ以上の場合は、一定の計算式によって計算することが可能です。
給与以外の場合、たとえば副業であれば収入から経費を引いた金額が所得となります。
また、国民年金や厚生年金などの公的年金の場合は、公的年金等控除という控除を引いた金額が所得になります。
所得金額調整控除
年収が850万円超の場合、下記のいずれかひとつでも当てはまる場合は「所得金額調整控除」の適用があり、給与所得から最大15万円が控除されます。
①あなた自身が特別障害者
②同一生計配偶者が特別障害者
③扶養親族が特別障害者(※)
④扶養親族が23歳未満(※)
※この場合の扶養親族とは、扶養控除と異なり、同一生計内のいずれか一方のみの方に適用するという制限がありません。つまり、あなた以外の方の同一生計親族の扶養控除や障害者控除等の対象としている方がいる場合は、所得金額調整控除の対象となります。
非課税所得・源泉分離課税・申告不要制度
非課税所得
下記のものは所得税上、非課税と定められているため、ご自身の税金を計算する場合や、扶養している家族の所得を判定する場合においては、計算に含めなくてよいこととなっています。
・通勤手当(通常必要と認められる範囲)
・NISA口座内の株や投資信託の売却・配当による所得
・生活に通常必要な動産を売却したことによる所得(生活用品をメルカリで売却した場合など。せどりなど儲ける目的のものは課税対象)
・遺族年金や遺族恩給
・贈与税や相続税の課税対象となるもの
源泉分離課税(利子・利息など)
国内の預金口座や国債に対する利子収入は、受け取る際に約20%の税金が引かれます。この利子等に関する所得については、ご自身の税金を計算する場合や、扶養している家族の所得を判定する場合において、計算に含めなくてよいこととなっています。
なお、銀行預金ではなく「他人に貸しているお金に対してついた利息」などは所得として計算対象となります。
申告不要制度(源泉徴収ありの特定口座)
源泉徴収ありの特定口座内における株や投資信託の売却・配当等による所得は、確定申告の対象としないことが可能です。この場合、ご自身の税金を計算する場合や、扶養している家族の所得を判定する場合においては、計算に含めなくてよいこととなっています。
ただし、何らかの理由で特定口座を確定申告の対象とする場合は、所得の計算上含まれることになりますので、特定口座の所得を加味したうえで扶養控除などの所得判定が必要になります。
年末調整で受けられる控除
配偶者控除・配偶者特別控除
扶養配偶者がいる方のための控除です。
所得要件
【あなたの所得が1,000万円以下(給与のみの場合、年収1,195万円以下)】で、かつ【配偶者の所得が133万円以下(給与のみの場合、年収2,015,999円以下)】である必要があります。
なお、あなたの所得が900万円超~1,000万円以下の場合、控除の金額に制限がかかります。
また、配偶者の所得が48万円超の場合は配偶者特別控除として、所得金額に応じて控除の額が徐々に減っていきます。
同一生計であること
配偶者とは同一生計である必要があります。原則として同居=同一生計となりますが、単身赴任等の事情により別の場所で暮らしていても、生活費を継続して仕送りしている等であれば同一生計として認められる場合があります。
他の方の扶養対象や事業専従者になっていないこと
配偶者が他の親族の扶養親族となっている場合や、配偶者が事業専従者である場合は控除の対象とすることはできません。
夫婦のうちどちらかが控除対象とすること
夫婦がお互いに控除の対象とすることはできませんので、どちらか一方を選択して控除の対象とする必要があります。
扶養控除
扶養親族がいる方のための控除です。
所得要件
親族の所得が48万円以下(給与のみの場合、年収103万円以下)である必要があります。
親族とは?
親族とはあなたの子、孫、親など、6親等内の親族及び3親等内の姻族)や里子等をいいます。
同一生計であること
扶養親族とは同一生計である必要があります。原則として同居=同一生計となりますが、学校等の事情により別の場所で暮らしていても、生活費を継続して仕送りしている等であれば同一生計として認められる場合があります。
他の方の扶養対象や事業専従者になっていないこと
その親族が他の親族の扶養親族となっている場合や、その親族が事業専従者である場合は控除の対象とすることはできません。
障害者控除
障害者や障害に準ずる事由のある方に対する控除です。
(一般)障害と特別障害
障害者控除は(一般)障害と特別障害に分かれており、特別障害の方が控除額が大きくなっています。
〇身体障害は1級と2級が特別障害者
〇精神障害は1級が特別障害者
〇知的障害は重度(「A」「マルA」「A2」など。愛の手帳の場合は1度と2度)が特別障害者となり、その他の等級の方は一般の障害者となります。
障害者手帳の交付を受けていなくても障害者控除の対象となる場合
⑴65歳以上で要介護・要支援の認定を受けており、市区町村から「障害者控除対象者認定書」の交付を受けた方 →一般又は特別障害者
⑵身体の障害により引き続き6か月以上寝たきりを常況としており、介護が無ければ排便等をすることができない方 →特別障害者
⑶成年被後見人として認定を受けている方 →特別障害者
⑷障害者手帳の交付を申請中の方等 →申請中又は医師の診断書を有している段階でも、その年の年末時点でこれらの障害があったと認められる場合は、一般又は特別障害者
⑸戦傷病者手帳の交付を受けた人 →一般又は特別障害者
⑹原爆被爆者として認定を受けた人 →特別障害者
所得要件
配偶者・親族を控除の対象にする場合、その方の所得が48万円以下(給与のみの場合、年収103万円以下)である必要があります。あなた自身が障害者等の場合は、あなたの所得に制限はありません。
16歳未満の親族であっても、障害者控除の対象とすることができます。また、あなた自身の所得が1,000万円超であることにより配偶者控除等の適用を受けることができない場合でも、配偶者の所得が48万円以下であれば控除の対象とすることが可能です。
同一生計であること
障害者控除の対象とする配偶者や親族とは同一生計である必要があります。原則として同居=同一生計となりますが、学校等の事情により別の場所で暮らしていても、生活費を継続して仕送りしている等であれば同一生計として認められる場合があります。
他の方の障害者控除対象になっていないこと
他の親族の障害者控除の対象となっている方を、あなたの障害者控除の対象とすることはできません。
ひとり親控除
子を育てるシングルマザー・シングルファザーのための控除です。
シングルマザー・シングルファザーであること
配偶者との死別や離婚、または未婚で、「シングルマザー・シングルファザー」に該当する方が対象です。再婚した場合や、事実婚の相手がいる場合は対象外となります。
所得要件
【あなたの所得が500万円以下(給与のみの場合、年収678万円以下)】で、かつ【子の所得が48万円以下(給与のみの場合、年収103万円以下)】である必要があります。
同一生計であること
その子とは同一生計である必要があります。原則として同居=同一生計となりますが、単身赴任等の事情により別の場所で暮らしていても、生活費を継続して仕送りしている等であれば同一生計として認められる場合があります。
他の方の扶養対象になっていないこと
その子が他の親族の扶養親族等となっている場合は控除の対象とすることはできません。
寡婦控除
配偶者と死別または離婚した女性のための控除です。
配偶者と死別又は離婚した女性であること
配偶者との死別や離婚をした女性が対象です。
再婚した場合や、事実婚の相手がいる場合は対象外となります。
所得要件
あなたの所得が500万円以下(給与のみの場合、年収678万円以下)である必要があります。
離婚の場合は、扶養親族がいること
離婚により寡婦控除を受ける場合は、扶養控除の対象とした扶養親族がいることが要件となっています。この場合は子に限らず、例えば親を扶養している場合なども対象になります。
勤労学生控除
一定以上の所得がある学生のために設けられた控除です。
副業等をしていない場合、
①住民税→年収100万円(未成年の場合、年収約204万円まで非課税)
②所得税→年収103万円
をそれぞれ超える場合はあなたに税金がかかりますが、勤労学生控除を受けることで節税になります。
※この場合の年齢はその年の12月31日時点の年齢を言います。
※年収103万円を超える場合は親の扶養控除対象から外れてしまうなど、ご家族に不利益が生じる場合がありますので注意してください。
学生であること
あなたが下記に該当する学生である必要があります。
イ 学校教育法に規定する小学校、中学校、高等学校、大学、高等専門学校など
ロ 国、地方公共団体、私立学校法の第3条に規定する学校法人、同法第64条第4項に規定する法人、これらに準ずる一定の者により設置された専修学校または各種学校のうち一定の課程を履修させるもの
ハ 職業能力開発促進法の規定による認定職業訓練を行う職業訓練法人で一定の課程を履修させるもの
所得要件
あなたの所得が75万円以下(給与のみの場合、年収130万円以下)である必要があります。
また、勤労以外の所得(配当所得や不動産所得など)が10万円以下である必要があります。
生命保険料控除
生命保険への加入促進のために設けられた控除です。
控除には保険料控除証明書が必要です。
保険料を実際に負担していること
生命保険料控除の対象となる保険契約は、原則としてあなたが保険料を負担しているものとなります。
家族が契約者となっている保険契約であっても、あなたが保険料を負担していれば控除の対象とすることができます。
たとえ契約者名義があなたでも、家族名義の銀行口座から保険料が引き落とされている場合など、あなたが保険料を負担していない場合は控除の対象とすることはできません。
個人年金保険料の場合
個人年金保険料控除は、あなた又は配偶者が保険金の受取人となるものだけが対象となります。
契約者名義が別の場合
家族が契約者となっている保険についてあなたが保険料を負担し保険料控除の対象とする場合、控除を受けることはできますが、保険金を受け取った際や年金の支給が開始した際に、贈与税等の課税が生じる場合があります。
地震保険料控除
地震保険への加入促進のために設けられた控除です。
控除には保険料控除証明書が必要です。
あなた又は同一生計親族が居住する家屋や生活用動産を対象としていること
実際にご自身や家族が居住する家屋等に関する者である必要があるため、なんらかの理由により別の家で暮らしている場合や、賃貸用物件などに関して控除を受けることはできません。
なお、自宅兼事務所など居住用以外の部分がある場合は、保険料のうち居住用部分に関する割合分が控除の対象となります。(ただし、居住用部分の割合が90%以上である場合は、居住用割合100%として計算してよいことになっています。)
保険料を実際に負担していること
地震保険料控除の対象となる保険契約は、原則としてあなたが保険料を負担しているものとなります。
家族が契約者となっている保険契約であっても、あなたが保険料を負担していれば控除の対象とすることができます。
社会保険料控除
社会保険制度への加入促進のための控除です。
給与から差し引かれたものは会社側で把握しているため、それ以外の社会保険料(子供の国民年金保険料など)を支払った場合には年末調整で申請が必要になります。
一定の社会保険料を実際に負担していること
<控除対象となる社会保険の例>
国民健康保険料(保険税)・後期高齢者医療保険料・介護保険料・国民年金保険料・国民年金基金の保険料
控除証明書を添付すること
上記のうち、国民年金保険料と国民年金基金の保険料については、社会保険料の控除証明書の添付が必要です。
小規模企業共済等掛金控除
iDeCoなど、老後資金づくりを目的とする年金制度等への加入促進のための控除です。
控除には控除証明書が必要です。
自らが加入者となっている一定の掛金を実際に負担していること
<控除対象となる掛金>
(1)小規模企業共済法の規定によって独立行政法人中小企業基盤整備機構と結んだ共済契約の掛金
(2)確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金または個人型年金加入者掛金
(3)地方公共団体が実施する、いわゆる心身障害者扶養共済制度の掛金
住宅ローン控除(税額控除)
持ち家政策の推進のために設けられた制度です。
初年度の場合
年末調整で住宅ローン控除を受けることはできませんので、住宅ローン控除以外の控除について年末調整で受けた後に、源泉徴収票に基づいてご自身で確定申告が必要です。
確定申告をすることで、税務署より2年目以降に年末調整で住宅ローン控除を受けるための書類が送られてきます。
2年目以降の場合
下記の2点の書類を添付し、年末調整にて控除の適用を受けることができます。
①税務署から交付を受けた「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」
②金融機関が発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」
(複数の金融機関から借入を行っている場合はすべて添付が必要)
まとめ
年末調整の手続きは、普段あまり税金とかかわりがない方も税金について考える機会となります。
複雑ではありますが、ご自身の税金に関係する部分ですので、ぜひ控除など漏れの無いように申請を行ってください。
東京都八王子市在住、36歳の税理士です。1987年11月18日東京都町田市生まれ、現在は妻と息子2人の4人暮らし。
相続税や所得税など個人に関する税金の算定、クラウド会計等を利用した小規模法人や個人事業主の業務効率化が得意分野です。