この度の令和6年能登半島地震により犠牲になられた方々に謹んでお悔みを申し上げるとともに、被災されました皆様、ご家族の方々に心よりお見舞い申し上げます。

今回の震災に関して、また今回に限らず災害が発生すると「寄付をして少しでも復興に役立ててほしい」と思う方も多くいらっしゃるかと思います。

そこで今回は、寄付をした場合の税制上(所得税・住民税・相続税)の優遇措置についてまとめてみました。

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寄付をした場合の優遇措置

税制上、社会貢献活動を促進しようという目的から、所得税と住民税において寄付金控除という制度が設けられています。

今回の震災に関するものはもちろん、なんらかの寄付を行った場合、一定の条件を満たす寄付であれば寄付金控除の対象として、寄付を行った方の所得税・住民税が減税されます。

寄付金控除の申請は任意ですが、控除を受けたい場合は必ず確定申告を行う必要があるため注意しましょう。

また、相続税の課税対象となる方で、相続が発生してから相続税の申告期限までの間に相続財産を寄付した場合には、その寄付財産を相続財産から除外して相続税を計算する制度もあります。(こちらは記事の最後に解説します)

寄付の時期と控除の時期の違い

所得税や住民税は暦年(1月~12月)を基準として計算するため、寄付を行った場合は年明け以降に確定申告を行う必要があります。

例えば今回の能登半島地震に関して令和6年中に寄付を行った場合、控除を申請するのは令和7年3月15日期限の確定申告時となります。

このように寄付を行ってから確定申告を行うまでに期間が空く場合があるため、控除を受けるためには証明書や振込票などの書類を申告時期まで紛失しないよう、注意が必要です。

なお、年末調整を行った給与所得者の方などで確定申告をする義務がない場合は「還付申告」となりますので、必ずしも3月15日までに申告を済ませる必要はなく、5年以内であれば行うことができます。

寄付金控除の対象にならないもの

どんな寄付でも対象になるわけではなく、控除の対象となるものは決まっています。

例えば下記のものは原則として控除の対象にはならないと考えておいた方がよいでしょう。

コンビニに置かれている募金箱や、街頭募金など

原則として証明書が交付されないため、控除対象になりません。

公益法人や認定NPO法人に指定されていない団体(町内会・宗教法人など)

寄付金控除の対象となる特定寄付金に該当しない場合、控除対象になりません。

寄付金控除の適用を受けたい場合は、寄付先が控除対象として認定されているかどうか確認が必要です。

特に大災害発生時には募金詐欺にも注意する必要があります。信頼できる寄付先かどうか見極めたうえで寄付を行うようにしましょう。

所得税・住民税における控除の種類

ひとくちに寄付金の控除といっても、所得税・(個人)住民税それぞれの取り扱いによって控除の金額が変わってきます。

なお、ここでいう住民税とは道府県民税と市町村民税を合わせたもので、道府県民税が4%、市町村民税が6%の合わせて10%となっていますが、一部の指定都市は道府県民税が2%、市町村民税が8%の計10%となっています。

ただし条例によりこれより高い税率になっている場合もあり、例えば神奈川県は県民税に超過課税分0.025%が上乗せされ、税率は10.025%となっていますが、下記の解説では原則として10%ということを前提に記載しています。

所得税における控除

(A)所得控除の対象となるもの

下記の寄付金は、所得税における所得控除の対象になります。

具体的には「(寄付額-2,000円)×所得税率」の分が減税になるため、所得が高い(税率が高い)方ほど減税効果は高くなります。

ただし、計算対象となる寄付金の額はその年分の総所得金額等の40%を限度とします。例えば総所得金額等が1000万円の方が1年間に500万円寄付をしたとしても、寄付額は400万円として計算します。

(1)国、地方公共団体(都道府県や市区町村)に対する寄付金
(2)公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人または団体に対する寄附金のうち、一定のもの
(3)教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与する寄付として一定のもの(独立行政法人、自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興・共済事業団、日本赤十字社私立学校社会福祉法人更生保護法人など)
(4)特定公益信託のうち、その目的が教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与する一定のものの信託財産とするために支出した金銭
(5)政治活動に関する寄附金のうち、一定のもの
(6)認定特定非営利法人等(いわゆる認定NPO法人等)に対する寄付金のうち、一定のもの
(7)特定新規中小会社により発行される特定新規株式を払込みにより取得した場合の特定新規株式の取得に要した金額のうち一定の金額(いわゆるエンジェル税制)

(B)税額控除の対象となるもの

下記の寄付金は、(A)の所得控除に代えて税額控除を受けることができます。

具体的には、下記(1)については「(寄付額-2,000円)×30%」、(2)と(3)については「(寄付額-2,000円)×40%」の金額分、所得税が控除されます。

(A)の所得控除と違い、控除割合が決まっているので所得税率が低い方は税額控除が有利になります。逆に所得税率が30%や40%を上回る方は、(A)の所得控除を選択したほうが有利になります。

ただし、計算対象となる寄付金の額はその年分の総所得金額等の40%を限度とするほか、計算後の税額控除額は

(1)についてその年分の所得税額の25%
(2)と(3)を合わせてその年分の所得税額の25%

の限度額があります。

(1)政党または政治資金団体に対する政治活動に関する寄付金で一定のもの
(2)認定NPO法人等に対する寄附金のうち、一定のもの
(3)公益社団法人公益財団法人私立学校社会福祉法人更生保護法人国立大学法人公立大学法人、独立行政法人国立高等専門学校機構、独立行政法人日本学生支援機構に対する寄付金のうち、一定のもの

住民税における控除

住民税においては所得控除の制度はなく、すべて税額控除の対象となります。(寄付金税額控除)

その方のお住いの地域によって控除対象とならないケースもあるため、注意が必要です。

(a)原則として全員が税額控除の対象となるもの

下記の寄付金は、道府県民税と市町村民税の両方が控除の対象となり、「(寄付額-2,000円)×10%」の分が減税となります。

ただし、計算対象となる寄付金の額はその年分の総所得金額等の30%を限度とします。

(1)地方公共団体(都道府県や市区町村)に対する寄付金

(2)住所地の共同募金会や日本赤十字社に対する寄付金

このうち、都道府県や市区町村に対する寄付金であれば(b)による上乗せ控除の対象になります。

(b)ふるさと納税による上乗せ控除の対象となるもの

都道府県や市区町村に対する寄付金で、総務大臣がふるさと納税の対象として認めた自治体であれば、(a)の10%控除に加えてさらに上乗せの控除が行われます。

具体的な計算方法はかなり複雑なのですが、ざっくりいうと「寄付額-2,000円」から「所得税において減税された金額」と「住民税の(a)で減税された金額」を引いた金額が減税対象額(※)となります。ただし控除額は一定の上限があります。

この上乗せ控除により、最終的には「寄付額-2,000円」の金額が所得税・住民税トータルで減税されるため、「実質的な支出額2,000円で寄付ができる」ということになります。

いわゆるふるさと納税だと上記の減税効果に加えてその自治体の名産品などがもらえるため、所得の高い方であれば多額のふるさと納税を行うことで、実質負担2,000円で様々な名産品をもらえてオトクな制度、ということになっています。

なお災害義援金などであれば逆に返礼品なしという形でこの制度が使われており、この場合はより寄付という意味合いが強くなります。

ただし、本来納税されるはずであった住所地の自治体は税収が減るため、その分公共サービスの低下等につながってしまう可能性はあります。

※細かい話をするとキリがないのですが、ふるさと納税の上限額以下の寄付であっても、計算式の特殊性から「寄付額-2,000円」の金額が所得税・住民税トータルで減税されないケースもあります。ふるさと納税ポータルサイトでは上限額の目安が試算できますが、厳密な計算ができないケースもありますので注意が必要です。

(c)都道府県や市区町村の条例により控除対象となるもの

下記の寄付金については、条例によって控除対象として定めている住所地にお住まいの方のみが控除の対象となります。

控除額は「(寄付額-2,000円)×税率(道府県民税・市町村民税)」となります。

ただし、計算対象となる寄付金の額はその年分の総所得金額等の30%を限度とします。

(1)所得税において所得控除の対象(上記(A))となっている寄付金(国・政党等に対するものは除く)
(2)(認定NPO法人以外の)NPO法人に対する寄付金

例えば「埼玉県」と「川口市」が条例により控除対象としているNPO法人に寄付した場合において、

〇「埼玉県川口市」にお住まいの方が寄付すると、県民税と市民税の合わせて10%分が控除対象
〇「埼玉県さいたま市」にお住まいの方が寄付すると、県民税の4%分のみが控除対象
〇「東京都八王子市」にお住まいの方が寄付しても控除対象外

といった形になります。

その団体が条例で指定されているかどうかは、各自治体のHP等で確認が可能です。また寄付金の控除証明書に控除の対象となる自治体が記載されている場合があります。

なお若干ややこしいのですが、NPO法人には認定NPO法人とそれ以外のNPO法人があります。認定NPO法人の方が条件が厳しく、所得税においては所得控除や税額控除を受けることができますが、通常のNPO法人の場合は所得税では控除対象になっていません。

住民税においては通常のNPO法人であっても自治体が条例で定めていれば、その自治体にお住いの方であれば住民税の控除対象になることがあります。認定NPO法人は(1)に該当するためNPO法人と同様に、自治体が条例で定めている場合のみ控除対象です。地元のNPO法人を応援する意味で所在地の自治体が条例対象としている場合が多いようです。

※さらにややこしいことに特例認定NPO法人というものもあります。以前は「仮認定NPO法人」とも呼ばれており、認定NPO法人の一歩手前のようなイメージになります。所得税・住民税においては認定NPO法人と同様に扱われますが、相続税における控除の対象にはなりません。

控除を受けるための手続き・必要書類

前述のとおり、寄付をした年分について確定申告が必要です。申告は寄付年の翌年ということになりますので注意が必要です。

なお、確定申告は通常「所得税」に関して行います。お住いの地域を管轄する税務署に対して所得税の確定申告を行うと、その情報をもとに住民税の確定申告も行われたことになるので、二重の申告は不要です。

ただし年金所得者などごく稀に「住民税の確定申告」のみを行った方がトータルの税金が安くなるケースもあるので、そのような場合にはお住いの市町村に対して住民税の確定申告を行います。

また申告をする際には寄付先から発行される控除証明書が必要です。なお日本赤十字社の災害義援金などの場合、振込時の振込証が証明書として使用できるケースもありますので、寄付先の対応を確認する必要があります。申告の時期まで書類はしっかりと保管しておくようにしましょう。

なおふるさと納税ポータルサイトを利用した場合は、年明けに1年分の寄付内容が記載された電子証明書を取得することができ、これをもとにe-Taxのソフト等に取り込み控除証明書の代わりとして申告することも可能です。ただし税理士に申告を依頼している場合は、税理士側で電子証明書による対応を行っているか事前に確認が必要です。1箇所のポータルサイトのみを使っていれば、その電子証明書だけで漏れなく1年分のすべての寄付内容が証明できるので便利です。

災害時における具体的な寄付先と控除の例

都道府県・市区町村への寄付

所得税において【(A)所得控除】住民税において【(a)10%の控除】と【(b)ふるさと納税の上乗せ控除】対象となります。

令和6年能登半島地震においては2024年1月15日現在で石川県富山県新潟県がそれぞれの日本赤十字社支部や共同募金会を通じた寄付を受け付けています。

またさとふるふるなび楽天ふるさと納税といったふるさと納税ポータルサイトを通じ、被災地の市町村に返礼品無しの寄付を行うことができます。

※いずれも本記事を執筆現在の情報です。

日本赤十字社の災害義援金としての寄付

厳密にいうと都道府県や市区町村に対する寄付ではないのですが、赤十字社等が行う被災地を指定しての災害義援金については、その実質が都道府県や市区町村への寄付にあたるものとして、都道府県・市区町村への寄付と同様に取り扱われます。

日本赤十字社の事業全般に関する寄付

災害義援金ではなく事業全般に関する寄付(会費)の場合、上記の災害義援金としての寄付とは異なり、所得税において【(A)所得控除】住民税において【(a)10%の控除】を受けることができます。

なお、住民税に関しては原則として住所地の支部に対する寄付である必要があります。

被災地で活動するNPO法人に対する寄付

そのNPO法人が認定NPO法人であれば所得税において【(A)所得控除】または【(B)税額控除】住民税においては住所地の自治体が条例で指定していれば【(c)条例による控除】を受けることができます。

また認定NPO法人ではない通常のNPO法人の場合、所得税では控除対象外となり、住民税においては住所地の自治体が条例で指定していれば【(c)条例による控除】を受けることができます。

相続税における優遇措置

所得税や住民税と違いいつでもできるものではありませんが、相続により取得した財産を一定の団体に寄付した場合には、その寄付財産を相続税の課税対象としない特例があります。

なお、この特例は所得税・住民税の控除と合わせて適用を受けることができますので、例えば相続財産として受け取った金銭を寄付することで相続税の優遇措置をうけ、かつその寄付金に対して所得税や住民税の寄付金控除を受けることが可能です。

条件は下記のとおりです。

相続や遺贈により取得した財産、または死亡保険金や死亡退職などみなし相続財産となるものを寄付すること(取得→寄付の順番が大事になります)
相続税の申告期限までに寄付すること
〇寄付先が国・地方公共団体、または公益法人など一定の団体であること

基本的に寄付先は所得税の寄付金控除にかなり近いのですが、異なる点もあるため注意が必要です。例えば特例認定NPO法人は相続税における対象にはなっていません。

相続発生から相続税の申告期限までに、相続財産を寄付する必要があることから時期が限られますが、相続税・所得税・住民税で控除を受けるとかなりの節税になることもあります。

まとめ

今回は寄付による税金の優遇措置についてまとめてみました。

寄付金控除の制度を使うと税負担を和らげながら寄付を行うことができますが、これはある意味「税金の使い道を自分で指定する」ことだと思っています。

災害の多い日本。被災地の一日も早い復旧を心よりお祈り申しあげます。