「親が亡くなり、実家が空き家になってしまった」「古い家なので誰も住む予定がなく、売却を考えている」

このようなお悩みを抱えている方に、ぜひ知っておいていただきたいのが「空き家譲渡特例(被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例)」です。

この特例を使うと、売却して出た利益から最大3,000万円を控除できるため、手元に残るお金が大きく変わります。

さらに、令和6年(2024年)1月1日以降の譲渡については制度が一部改正され、これまでよりも使いやすくなりました。

今回は、この特例の仕組みや令和6年改正のポイント、そして適用を受けるための重要な注意点(特に買主が解体する場合)をわかりやすく解説します。


Contents

1.どんな特例?代表的なパターンと節税効果

この特例が使える「よくあるケース」

この特例は、以下のようなケースを想定して作られています。

【典型的なモデルケース】

  • 親御さんが実家(昭和56年5月31日以前に建てられた古い家)に一人で住んでいた。
  • 相続が発生し、子供がその土地と建物を相続した。
  • 子供はすでにマイホームを持っているため、実家には住まず「空き家」になった。
  • 相続から約3年以内に、その実家を売却することにした。

このようなケースで、その家を売る時に多額の税金がかかってしまうとなると、とりあえず売らずに空き家のまま放置してしまうというような状況が生まれる可能性があります。

そうすると、家屋倒壊や周辺環境の悪化などのリスクが生じてしまいます。そのために設けられたのがこの特例です。

どのくらい税金が安くなる?

不動産を売って利益(譲渡所得)が出た場合、通常は約20%(所有期間が5年超の場合)の税金がかかります。しかし、この特例を使うと利益から最大3,000万円を差し引くことができます。

【例:売却益が3,000万円出た場合】

  • 特例を使わない場合 3,000万円×約20%=約600万円の税金
  • 特例を使った場合 (3,000万円-3,000万円)×約20%=0円

このように、特例をフル活用できれば約600万円もの節税になります。

また、この不動産を共有で取得した場合、2人であればおひとりあたり3,000万円、3人以上の場合はおひとりあたり2,000万円の控除が可能なので、世帯全体での節税額はさらに大きくなります。非常にインパクトの大きい制度ですので、使えるかどうかのチェックは必須です。


2.あなたは対象?「3つの視点」でチェックする適用要件

この特例は節税効果が大きい分、要件が細かく決められています。ご自身が対象になるか、以下の「3つの視点」で確認してみましょう。

①亡くなった方(被相続人)に関する要件

まずは、亡くなった親御さんなどの「住まい方」についての条件です。

一人暮らしであったこと

相続開始の直前まで、その家屋に「一人で」居住していたことが必要です。

要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所していた場合も、「入所直前まで一人暮らしだった」「入所後は空き家だった」などの一定条件を満たせば対象になります。

②家や土地に関する要件

次に、売却する物件の状態や金額についての条件です。

古い耐震基準の家であること

昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された家屋(旧耐震基準)である必要があります。登記簿謄本などで確認を行います。なおマンションなどの「区分所有建物」は対象外です。

ずっと「空き家・空き地」であったこと

相続してから売却するまで、事業用・貸付用・居住用に使われていないこと(空き家の状態が続いていること)が条件です。

一時期でも誰かに貸したり、親族が住んだりすると特例の適用対象外となる可能性があります。

売却代金が1億円以下であること

家屋と敷地の売却代金(固定資産税精算金なども含む)の合計が1億円以下である必要があります。なお後述しますが、買主側で解体する場合の解体費用なども売却代金とみなされます。

また土地を複数回に分けて売却する場合、売却代金の合算判定などが必要になる場合があり、注意が必要です。

売却時の状態について

以下のいずれかの状態で売却する必要があります。

  • 耐震リフォームを行い、現行の耐震基準に適合させてから売る。
  • 家屋を取り壊し、更地にしてから売る。
  • (令和6年改正)家屋と土地のセットで売却し、翌年2月15日までに買主が耐震改修または解体を行う。

③相続人(売る方)に関する要件

最後に、相続人ご自身の行動や期限についての条件です。

家と土地の両方を相続していること

亡くなった方から、家屋と敷地の「両方」を相続(または遺贈)により取得している必要があります。土地のみ、家屋のみ取得している場合はNGです。

期限内に売却すること

相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。


3.令和6年(2024年)1月からの主な変更点

令和6年1月1日以降の譲渡から、制度が一部変更され、より使いやすくなりました。

①適用期限の延長

特例の適用期限が4年間延長され、令和9年(2027年)12月31日までの譲渡が対象となりました。

②売却後の買主による解体・耐震改修もOKに

これまで(令和5年まで)は、引き渡し前(売主側)に解体や耐震改修を完了させる必要がありました。しかし今回の改正で、引き渡し後(買主側)に工事を行う場合でも、譲渡の翌年2月15日までに完了すれば特例の対象となりました。これにより、売主が解体費用を立て替えることなく、「古家付き土地」として現状有姿で売却しやすくなりました。

③家屋と敷地を取得した相続人が3人以上の場合の減額

家屋と敷地を取得した相続人が3人以上いる場合、特別控除額が一人あたり3,000万円から2,000万円に引き下げられました(2人以下の場合は3,000万円のままです)。これは、意図的に共有者を増やすことで控除額を増やすことができてしまうことに対する対応となります。


4.「買主が解体」する場合の注意点

改正により「売却後の解体」が可能になりましたが、これには大きなリスクも伴います。

もし買主が期限(翌年2月15日)までに解体工事を完了しなかった場合、売主であるあなたが特例を受けられなくなる(税金が高くなる)からです。

この期限は絶対的なものですので、1日でも遅れるとその時点でアウトとなってしまいます。

つまり、売主であるあなたがどんなに注意をしても、買主側が約束を守らなかったことから特例が使えなくなってしまった、というリスクがあることになります。

このリスクを避けるため、売買契約書には以下のような条項を盛り込む方が無難です。

  • 解体等の実行義務 「買主は、譲渡の年の翌年2月15日(※)までに対象家屋を解体(または耐震改修)しなければならない」という義務を明記する。
  • 完了報告と証明書の提出 解体完了後、速やかに売主に報告し、証明書類(閉鎖事項証明書や解体後の写真など)や解体費用の領収書を提出することを約束させる。
  • 損害賠償の取り決め もし買主が期限を守らず、そのせいで特例が受けられなくなった場合、その損害(増えた税金分など)を賠償する条項を入れる。

※期限設定について

法的な期限は「翌年2月15日」ですが、解体工事の遅れや登記手続き、その後の申請や確定申告の手続きを考慮し、売買契約書上の完了期限はなるべく余裕を持った日付を設定することを強くお勧めします。期限ギリギリの設定は、万が一の際に特例適用を危うくするリスクがあります。

例えば年末に売買契約をする場合などにおいては、あえて引渡しの時期を年明けにすることで、確定申告が必要となる年を1年後ろにずらすという考え方もあります。そうすれば解体の期限も1年先に延びることになりますので、買主側と合意が得られるのであれば有効です。

ただし相続から3年以内の12月31日までに譲渡すること、という適用のための条件もありますので、その点も含めて総合判断が必要です。

解体費用の取り扱い

買主が負担する解体費用は、1億円判定における「売却代金」に加算することになっています。「売却代金(固定資産税清算金含む)+解体費用」の合計が1億円を超えてしまうと特例が使えなくなる可能性がありますので、価格設定には十分ご注意ください。


5.空き家と敷地を共有で取得することにより節税できる?

売却益から差し引くことができる特別控除額は、一人あたり3,000万円とされており、売却益は共有であれば持ち分に応じて按分されるのに対し、特別控除額はそれぞれ使うことができるため、共有者が増えれば増えるほど節税が可能です。

令和6年から家屋と敷地を取得した相続人が3人以上いる場合、特別控除額が一人あたり3,000万円から2,000万円に引き下げられましたが、それでもこの手法は有効です。

【例:売却益(売却金額から取得費と譲渡費用を差し引いた金額)が8,000万円の場合】

1人の場合

売却益8,000万円
8,000万円-3,000万円(特別控除)=5,000万円の譲渡所得
税金(約20%)=1,000万円の税負担

2人(1/2ずつ取得)の場合

ひとりあたりの売却益は8,000万円×1/2=4,000万円
4,000万円-3,000万円(特別控除)=ひとりあたり1,000万円の譲渡所得
税金(約20%)=ひとりあたり200万円×2人=合計400万円の税負担

3人(1/3ずつ取得)の場合

ひとりあたりの売却益は8,000万円×1/3=2,666万円
2,666万円-2,000万円(特別控除)=ひとりあたり666万円の譲渡所得
税金(約20%)=ひとりあたり133万円×3人=合計400万円の税負担

4人(1/4ずつ取得)の場合

ひとりあたりの売却益は8,000万円×1/4=2,000万円
2,000万円-2,000万円(特別控除)=譲渡所得なし
利益が生じていないので税負担もなしとなります。

このように、空き家を売却することが決まっており、かつ都心の物件など値上がり益が多額にある物件であれば、共有で相続することにより税負担を抑えることが可能です

※売却金額1億円までの制限は合計金額で判定するため、共有者を増やしても変わらないことに注意が必要です。

ただし、不動産を共有すると売買契約時に手間が生じたり、誰かが「売りたくない」と言い出して状況が複雑になったりするリスクもありますので、その点はご家族でよく話し合う必要があります。


6.資料準備は「早め」が鉄則!意外と大変な手続き

この特例を受けるためには、確定申告書に「被相続人居住用家屋等確認書」という書類を添付する必要があります。これは税務署ではなく、空き家がある市区町村の役所に申請して発行してもらうものです。

市区町村によって対応が異なる可能性もありますので、必ず事前に必要書類を確認しましょう。例えば八王子市内の空き家であれば、確認書の発行手順や必要書類に関して八王子市のHPで確認できます。

特に空き家を解体するために書類の処分などを進めてしまうと、「申請に必要だったのに捨ててしまった!」という事態が生じる場合があります。書類は早め早めに用意することをおすすめします。

申請に必要な書類の例

役所への申請には、多くの証拠資料が必要です。

電気・ガス・水道の使用中止日(閉栓日)がわかる書類

相続してから売却(または解体)するまで、誰も住んでいなかったことを証明するために必要です。「使用中止日が記載された閉栓証明書」や「使用量がゼロ(または管理利用のみ)であることがわかる検針票や領収書」が必要になるため、捨てずに保管しておきましょう。

解体後の現場写真

更地にした場合、解体後の敷地の写真が必要です。

老人ホーム等に入所していた場合

要介護認定を受けていたことがわかる書類(被保険者証の写し等)や、施設の入所契約書などが必要です。

これらの書類を集めて役所に申請してから確認書が発行されるまで、通常1週間〜数週間かかります。不備があればさらに時間がかかります。確定申告期限(3月15日)の直前に動くと間に合わない可能性がありますので、売却が決まったらすぐに準備を始めましょう。


まとめ

空き家譲渡特例は、要件さえ満たせば数百万円単位の節税が可能な強力な制度です。

しかし、「一人暮らしの証明」や「1億円判定」、「各種期限」など、判断を誤ると適用できない落とし穴も多く存在します。特例の適用を考えている場合は、売却前から計画的に資料を準備していくことが大事です。

特に令和6年以降の「買主解体」のパターンを使う場合は、契約書の文言が非常に重要になります。

  • 「うちは使えるのかな?」
  • 「契約書にどのような条項を入れたらいい?」

など、少しでも不安な点がございましたら、税理士などの専門家にご相談ください。