相続税申告の仕事をしていると、こういったことを聞かれることがあります。

「そもそも、相続税ってどんな財産にかかるの?」

「お墓には相続税がかからないんだよね?」

「タンス預金しておけば相続税が安くなるんでしょ?」

意外と誤解の多いこの話。簡単に整理してみましょう。

Contents

基本的に、亡くなった方のすべての相続財産が対象

相続税は、預貯金や不動産・有価証券のほか、家財家具や他人への貸付金・お金を受け取る権利など、亡くなった方の相続財産すべてに対してかかります。

「相続税がかかる財産」を理解するには、まず「相続税がかからない財産」を理解して、それ以外の財産が相続税の対象になる、と考えるとよいでしょう。

「相続税がかからない財産」とは?

相続税の法律において、相続税のかからないもの(非課税財産)が限定的に6種類定められています。

<相続税の非課税財産(相続税法12条)>

⑴天皇が皇位継承とともに引き継ぐ、由緒ある物(三種の神器など)
⑵お墓・仏壇・仏具など
⑶公益を目的とする事業を行う人が取得し、その事業のために使う財産
⑷心身障害者を扶養する人が加入する共済制度に基づく、給付金の受給権
⑸相続人が取得する死亡保険金のうち、【500万円×法定相続人の数】までの部分
⑹相続人が取得する死亡退職金のうち、【500万円×法定相続人の数】までの部分

三種の神器などは関係ない話ですね。基本的には⑵⑸⑹を考えればよいでしょう。

「お墓に相続税はかからない」というのは正解です。⑵に該当します。

⑸や⑹は後述の「みなし相続財産」というところで解説します。

※その他、相続等により取得した財産を、国や地方公共団体・公益性の高い法人に寄付した場合なども相続税の対象から除外する制度などがあります。

「相続税がかかる財産」とは?

上記の通り、「相続税がかからない財産」以外の財産は基本的に相続税の対象となります。

具体的には下記のようなものになります。

  • 現金(亡くなった日現在において残っているもの。財布・金庫・屋根裏・タンスなど保管場所を問わない。もちろんタンス預金も対象
  • 預金・貯金
  • 電子マネー・仮想通貨
  • 土地や建物といった不動産(未登記のものや外国のものも含む)
  • 株式・投資信託などの有価証券(自分や友人が設立した会社に出資した場合など、非上場のものも対象。株券の有無は関係なし)
  • 金貨・インゴット
  • 宝石などの貴金属や書画、骨董など
  • 他人へ貸したお金(貸付金)
  • 特許権や著作権
  • 損害賠償や不法行為その他により金銭を受け取る権利
  • ゴルフ会員権・リゾート会員権
  • タンスなどの家財家具・家庭用財産・電話加入権
  • 個人事業をしていた場合、事業用財産(売掛金・商品・減価償却資産など)や営業権

もちろん上記以外でも、相続財産として考えられるものは基本的に相続税の対象になると考えてよいでしょう。

「財産的な価値がないもの」は現実的には除外する

相続税においては、これらの財産について「いくらの価値があるか」という観点で評価し、計算することになります。

実際問題、相続財産ではあっても「金銭的な価値を考えるとほぼゼロ」という財産もあるでしょう。そのような財産は、現実的には相続税の申告書には記載しません。

「家族写真」など遺族にとってはとても価値のあるものですが、一般的な金銭的価値を考えるとほぼゼロですよね。

また、家財家具などは「タンスが〇円」「イスが〇円」とひとつひとつ評価するのではなく、「家財家具一式 〇〇万円」とまとめて記載することが一般的です。(ひとつひとつ評価する方が正しいでしょうけど…)

そもそも相続の対象にならないもの

やや専門的な話ですが、「相続財産」とは、一般的には民法という法律で相続の対象になるものを指します。

民法において、亡くなった方が有していた権利義務は基本的にすべてが相続の対象となりますが、例えば「一身専属権」は相続の対象にならないこととなっています。

「一身専属権」とは、運転免許や税理士資格などが該当します。私が亡くなったらその資格を相続して子供が自動的に税理士になれる、なんていうことはありません。当たり前ですね。また、生活保護を受ける権利なども「一身専属権」に該当します。

このようなものはそもそも相続の対象にならないわけですから、相続税の対象にもなりません。

名義が違っても、実質が亡くなった方のものであれば対象となる

相続税は名義にかかわらず、亡くなった方の財産すべてが課税対象となります。たとえ名義が違っても、その実質が亡くなった方のものであると考えられる場合は対象となります。
遺族の方や他人名義の財産についても、実質的に亡くなった方の財産と考えられるものがないか確認することが必要です。

<他人名義財産の例>

  • 子供名義の預金口座を作成し、親がそこに入金していた場合(名義預金)
  • 子供名義の生命保険契約で親が保険料を支払った場合(名義保険)
  • 名義が先祖のままになっている不動産  など

この他人名義財産については判断に迷うことが多く、相続税の税務調査において問題になりやすい部分です。

※生前に贈与が成立している財産については、亡くなった方の財産ではなく贈与により受け取った方の財産になるため、ここからは除外されます。ただし、後述の3年以内の贈与財産に該当する可能性があります。

相続財産ではないが、相続税の対象になるもの

民法上の相続財産にはならないものの、例外的に相続税の対象となるものがあります。

死亡保険金・死亡退職金・保険契約の権利など(みなし相続財産)

やや専門的な話ですが、亡くなった方により発生する死亡保険金や死亡退職金は、「受け取る方の固有財産」であって民法上の相続財産ではありません。
しかし、これらは税金の計算上は「亡くなった方の相続財産と”みなす”」、いわゆる「みなし相続財産」として相続税がかかることになっています。

なお、相続税の非課税財産として

⑸相続人が取得する死亡保険金のうち、【500万円×法定相続人の数】までの部分
⑹相続人が取得する死亡退職金のうち、【500万円×法定相続人の数】までの部分

という規定があるため、現実的にはこの非課税枠を超える部分が相続税の対象となります。

また死亡保険金・死亡退職金以外にも、保険契約を相続人が引き継ぐ場合にも、その契約がみなし相続財産となります。
死亡後も保険契約が残り、相続人に名義を書き換える場合などが該当しますが、この場合は上記の非課税枠がないため、全額が相続税の対象となります。

相続開始前3年以内の贈与財産

生前に贈与が成立した財産については、既に贈与を受けた人の財産になっているため、亡くなった方の相続財産ではありません。

しかし、「相続等により財産を受け取った方」が「亡くなった日からさかのぼって3年以内に贈与を受けた財産」については、相続税の計算に含めることとなっています。

なお、贈与税がかからない年間110万円以下の贈与も対象です。

※ちなみに贈与が適法に成立していない場合は、前述の「他人名義だが実質的には亡くなった方の財産」として考えるため、3年という期間の縛りはありません。すべてが相続税の対象です。

相続時精算課税制度を利用した贈与財産

「相続時精算課税」という、贈与税における特別な制度があります。

これは、生前贈与をする場合において税務署へ届け出ることで、「贈与税をかけない(安くする)けれども、相続税を計算するときには相続税の対象にしますよ」という制度です。

通常であれば生前贈与が成立している場合、前述の3年以内の贈与財産でなければ相続税の対象にはなりません。この制度を使った贈与財産については過去何年でもさかのぼって、相続税の対象となります。

まとめ

  • 基本的に、法律で定められている「相続税がかからない財産」以外は、すべてが「相続税がかかる財産」になる。
  • 名義にかかわらず、実質的には亡くなった方の財産だと考えられる場合は、「相続税がかかる財産」になる。
  • 保険や退職金などのみなし相続財産や、生前贈与があった財産についても注意が必要。

 

ご不明な点がありましたら、最寄りの税務署又は税理士にお尋ねください。