前回、損益通算とは担税力を調整するための制度だということ、所得の区分によっては損益通算が認められるものと認められないものがある、という話をしました。

 

 

今回は、副業を赤字で申告する際に問題となる、損益通算が認められる「事業所得」と、損益通算が認められない「雑所得」の違いについて、法律上の定義をみていきます。

 

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「開業届を出したから事業所得」ではない

誤解している方が多いのですが、「個人事業の開業届」を出したから事業所得にしていい、というものでもありません。

税金の世界は実質で物事を考えます。「『個人事業を開始します』という届を出した」というような形式的な話はあまり関係がなく、「その人のその所得の内容をみたときに、事業所得の条件を満たしているか?」という実質を重視します。

開業届を出しても雑所得として判断されることもあるし、逆に開業届を出していなくても事業所得として申告することは可能です。

そこでまずは、「事業所得」と「雑所得」の法律上の定義を理解することが大事です。

法律で見る「雑所得」の定義

事業所得の定義を見る前に、まずは簡単(?)な雑所得の定義を見てみましょう。

雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。(所得税法35条1項)

なんらかの所得(儲け)が発生した場合、それが給与所得や事業所得など他の所得に該当しないかを判断していきます。

その結果、「どの所得にもあてはまらない」場合に雑所得に該当する、ということになります。

ある意味で、雑所得は最後の砦。時代の変化とともに今後も新しい形の「儲け」が出てくるでしょうが、他の所得に該当しなければ雑所得に該当するわけですから、その儲けに対して税金が発生しない、ということは基本的にあり得ません。(法律で特別に非課税とされているものを除きます。)

法律で見る「事業所得」の定義

それでは、事業所得の定義を見てみましょう。

事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。(所得税法27条1項)

とりあえず、農業やサービス業は事業所得にあてはまるっぽいように思えます。

ちなみに、「その他の事業で政令で定めるもの」というのは下記になります。

(事業の範囲)
所得税法27条1項(事業所得)に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業(不動産の貸付業又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする。

①農業 ②林業及び狩猟業 ③漁業及び水産養殖業 ④鉱業(土石採取業を含む。) ⑤建設業 ⑥製造業 ⑦卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。) ⑧金融業及び保険業 ⑨不動産業 ⑩運輸通信業(倉庫業を含む。) ⑪医療保健業、著述業その他のサービス業 ⑫前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業(所得税法施行令第63条)

いろいろな事業の種類が書いてありますが、最終的には⑫で「対価を得て継続的に行う事業」であれば事業所得になるんだと書いてあります。

どの程度なら「業」といえるか

前述の通り、法律の上では事業の種類(内容)にかかわらず、その事業が「対価を得て継続的に行うもの」であれば事業所得になると考えられます。(不動産貸付業など、他の所得に該当するものは除きます)

そこで考えなければいけないのは、どの程度ならば「業(事業)」といえるレベルになるか、という話です。

先祖代々受け継いだ畑を所有している会社員が、休日を利用して家庭菜園に毛が生えたレベルで野菜を育て、家で食べきれないからご近所さんに販売したら「農業」といえるのか。

年金をもらって生活していて趣味で小説を書いていた人が、たまたま雑誌に載ってお金をもらった場合に「著述業」といえるのか。

これらが「業」として認められるようなレベルで、かつ対価を得て継続的に行えば事業所得に該当するでしょう。

売上〇万円以上ならOK!という単純な話ではない

どの程度であれば「事業」といえるのか。これについて、法律上では明確な答えが定まっていません。例えば「売上がいくらあれば事業所得にしてもいい」など具体的なことはどこにも書かれていないのです。

(ネットの記事で「売上〇万円ぐらいあれば事業所得で大丈夫」とか無責任に書いてあるものもありますが…)

もし事業所得に該当しないのであれば、一般的な副業であれば多くの場合、その他の所得にも該当しませんから、行き場を失って「雑所得」と判断されることになります。

繰り返しますが、もし「雑所得」と判断された場合、赤字であっても給与と損益通算することはできません。

事業 or 雑。結局はグレーゾーン。

「事業所得か雑所得か」というのは、法律上でも判断が難しいグレーゾーンが存在します。

このような場合、実務上は過去の裁判での判断(判例)を元に考えていくこととなります。

 

所得税は「申告納税制度」を採用しています。自分の税額を自分で計算して、自分で「私は税金がいくらですよ」と申告し、納税するのです。つまり、最初は自分自身で「事業所得か雑所得か」を判断して、税務署に申告することになります。その後、税務署が内容のチェックを行い、問題があれば是正されることになります。

よく「税務署の窓口でちゃんと受理してくれたから問題なしってことでしょ?」と言う方がいますが、あれは押印の有無など最低限のチェックしかしていません。申告書の内容は受理をした後で、じっくりと確認が行われています。

その上で、問題があるようであれば通常2~3年経った段階で税務署から連絡が入ります。(明らかな計算ミスや添付書類漏れは、申告後すぐに連絡がある場合もありますが)

つまり、「事業所得か雑所得か」はまず自分で決めて、それを税務署がチェックして問題があれば是正される、という流れになります。

その後で、税務署の判断に納得がいかなければ、もう一度検討してもらえるように異議申し立てをしたり、それでも納得ができなければ国を相手に裁判を起こす、ということになります。

 

実際問題、事業所得か雑所得か、というのは過去にも裁判で何回も争われている事例であり、その判例の蓄積があります。

(損益通算だけではなく、事業所得には多くの税金計算上の特例が存在するため、事業所得か雑所得か、というのは非常に大きな問題です)

 

「いろいろ調べたけど結局、自分の副業が事業所得なのか雑所得なのかわからないよ!」ということでこのページにたどり着いた方もいるかもしれません。結局のところ「裁判で争われるぐらい微妙な話なので、はっきりとした基準が存在しない」というのが一つの答えなのです。

それでは我々が申告をするにあたってどう判断すればいいのか、というのは結局のところ、過去の判例を元に自分自身にあてはめて、自分なりに判断するしかありません。

過去の判例ではどのような事例に基づいてどのような判断を下しているのか。次回はこのあたりを見ていきたいと思います。